日銀黒田総裁会見詳細(2017年3月17日)

2017年3月17日

昨日3/16(木)に行われた日銀金融政策決定会合後の、黒田日銀総裁会見詳細です。
(時事通信より転載)

Q、まず1点、本日の決定会合の決定内容と、その理由についてお聞かせください。
A、本日の決定会合では長短金利操作、いわゆるイールドカーブ・コントロールの下でこれまでの金融市場調節方針を維持することを賛成多数で決定しました。すなわち、短期金利について、日本銀行当座預金のうち、政策金利残高にマイナス0.1%のマイナス金利を適用するとともに、長期金利について10年物国債金利が0%程度で推移するよう長期国債の買い入れを行います。買い入れ額についてはおおむね現状程度の買い入れペース、すなわち保有残高の増加額年間約80兆円をめどとしつつ、金利操作方針を実現するよう運営することとします。また、長期国債以外の資産買い入れに関しては、これまでの買い入れ方針を継続することを賛成多数で決定しました。
 わが国の景気については、緩やかな回復基調を続けています。やや詳しく申し上げますと、海外経済は、新興国の一部に弱さが残るものの、緩やかな成長が続いています。そうした下で輸出は持ち直しています。
 国内需要の面では、設備投資は企業収益が改善する中で緩やかな増加基調にあります。個人消費は、雇用・所得環境の着実な改善を背景に底堅く推移しています。この間、住宅投資と公共投資は横ばい圏内の動きとなっています。以上の内外需要の緩やかな増加に加え、在庫調整の進捗(しんちょく)を反映して、鉱工業生産は持ち直しています。また、金融環境については極めて緩和した状態にあります。
 先行きについては、わが国経済は緩やかな拡大に転じていくとみられます。国内需要は、極めて緩和的な金融環境や、政府の大型経済対策による財政支出などを背景に、企業、家計の両部門において所得から支出への前向きの循環メカニズムが持続する下で、増加基調をたどると考えられます。輸出も、海外経済の改善を背景として、基調として緩やかに増加すると見られます。
 物価面では、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は0%程度となっています。予想物価上昇率は、弱含みの局面が続いています。
 先行きについては、消費者物価の前年比は、エネルギー価格の動きを反映して0%程度から小幅のプラスに転じた後、マクロ的な需給バランスが改善し、中長期的な予想物価上昇率も高まるにつれて、2%に向けて上昇率を高めていくと考えられます。
 リスク要因としては、米国経済の動向やその下での金融政策運営が国際金融市場に及ぼす影響、中国をはじめとする新興国、資源国経済の動向、英国のEU離脱問題の帰趨(きすう)やその影響、金融セクターを含む欧州債務問題の展開、地政学的リスクなどが挙げられます。
 日本銀行は、2%の物価安定の目標の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで長短金利操作付き量的・質的金融緩和を継続します。また、生鮮食品を除く消費者物価指数の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、マネタリーベースの拡大方針を継続します。今後とも、経済・物価・金融情勢を踏まえ、物価安定の目標に向けたモメンタムを維持するため、必要な政策の調整を行います。

Q、2点目の質問をお願いします。米国は堅調な経済指標や物価情勢を踏まえて利上げを決めました。一方で、ECBも昨年12月の理事会で今年末までの緩和延長を決めてはいるものの、ユーロ圏内の2月の消費者物価指数が前年同月比で2%上昇しています。日本の物価上昇は取り残されているとも言えるのではないかと思います。各国の事情も踏まえて、それぞれの理由についてどう捉えていらっしゃるかお聞かせください。
A、米国、欧州およびわが国の消費者物価の動向を見ますと、期央の原油価格の下落に伴う押し下げ寄与が縮小する下で、いずれの地域においてもいわゆるヘッドラインの物価上昇率が高まる傾向にある点では共通しているわけですが、エネルギー価格を除いた基調的な物価の動きには差があります。すなわち、米国では労働市場で雇用が拡大し、賃金が緩やかな上昇を続ける下で、コアベースのインフレ率は前年比プラス1%台後半での推移を続けております。
 欧州では、コアベースのインフレ率は前年比プラス1%弱で推移しており、この点、ECBは基調的なインフレ率の上昇トレンドはまだ明確に見られていないとしております。
 この間、わが国では、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、1月はプラス0.1%と2015年12月以来のプラスに転じましたが、生鮮食品とエネルギーを除くベースで見ると、昨年初以降前年比プラス幅の縮小傾向が続いた後、このところは一進一退の動きとなっており、1月はプラス0.2%となっております。こうした動向を踏まえ、物価については、2%の物価安定の目標に向けたモメンタムは維持されているが、なお力強さに欠けていると判断しております。
 もっとも先行きについては、展望リポートで示している通り、マクロ的な需給バランスが改善し、中長期的な予想物価上昇率も高まるにつれて、2%に向けて上昇率を高めていくと考えております。
 日本銀行としては、今後とも2%の物価安定の目標をできるだけ早期に実現するため、現在の長短金利操作付き量的・質的金融緩和の下で、強力な金融緩和をしっかりと推進していく所存でございます。

Q、3点目の質問です。昨日、春闘の集中回答の結果、小幅ながら4年連続でベア実施となる見通しとなりました。今年の春闘の受け止めと、物価に与える影響をどうみていらっしゃるかお聞かせください。
A、ご案内の通り、春闘については現在労使間で交渉が行われておりまして、全体の賃金設定動向にはなお見極めが必要な状況であるというふうに考えております。その上で、昨日の大企業の集中回答の結果を見ますと、多くの企業において4年連続でベースアップの実施が見込まれております。従来から申し上げております通り、日本銀行は企業収益や賃金の上昇を伴いながら消費者物価上昇率が緩やかに高まっていくという好循環をつくり出していことを目指しております。4年連続でのベースアップの実施に向けた動きは、こうした経済の好循環の実現を後押しするものであると思います。今後とも労使双方において好循環実現に向けた前向きの取り組みが広がっていくことを強く期待しております。

Q、米利上げについて、新興市場を中心とする世界の金融市場への影響をどう考えていらっしゃるかお聞かせください。
 2点目ですが、ドイツのバーデンバーデンで17日からG20、財務相・中銀総裁会議が始まりますが、世界経済の成長に向けて自由貿易の重要性や為替の安定などに関して、G20がどういうメッセージを出すのかが注目されていると思います。会議の見通しと、総裁自身何を期待されるのかお聞かせください。
A、FRBの金融政策運営自体について何か具体的にコメントするということは差し控えたいと思いますけども、ご案内の通り、FRBは事前の市場の予想通り0.25%の利上げを実施いたしました。その声明文では、インフレ率は最近上昇しており、長期目標である2%に近づいている。エネルギー、食品を除くインフレ率はほとんど変化がなく、2%を幾分下回る水準というふうに評価をしております。
 また、イエレン議長は記者会見におきまして、米国の経済状況は雇用と物価の目標を達成し維持するための金利の上昇を正当化する形で展開すると予想しているという従来からの目標を確認いたしております。FRBは、今後とも米国の経済・物価動向や、それから世界経済、金融情勢を見極めながら、金融政策に関する判断を適切に行っていかれるものというふうに考えております。
 現時点で米国における金利の上昇というものが新興国の経済に何か深刻な影響を与えているというような状況にはないと思っておりますけれども、もとより新興国もさまざまでありますので、今後とも国際金融情勢が新興国に与える影響については注意深く見ていく必要があるというふうに思っております。
 それからG20につきましては、これはまだこれから今週末に行われるということですので具体的なことを申し上げる状況にありませんけれども、G20ですから、会合ではいつもの通り世界経済の現状と先行き、それから国際金融情勢について議論が行われると思います。また、G20として従来からの成長戦略の実施状況や、あるいは金融規制の改革、国際金融アーキテクチャーなどについても引き続き議論をしていくということになると思います。何といいましても今回のG20では、米国の新政権の下でムニューチン財務長官が初めて出席されるということですので、当然米国の経済政策などについても深い関心が持たれるのではないかというふうに思っております。
 いずれにいたしましても、G20はいつもそうですけども、財務大臣・中央銀行総裁会議が何度かありまして、最終的にG20の首脳会議に向けて合意を深めていくというプロセス、ドイツが議長国になったその最初の出発点であるというふうに思っております。

Q、1点お伺いしたいのは、マーケットでは日銀が長期金利の操作目標を年内どこかの時点で引き上げるのではないかというような観測も出ています。量についてはオーバーシュートでやるということで割と明確に解除の条件を定めているわけですけれども、長期金利をいつ上げるかという、そこの情報が少し不足しているように思います。日銀としてどういう条件が整ったら長期金利の目標を引き上げるというのが検討の視野に入ってくるのか、そこの条件のようなところについて少しお話しいただければと思います。
A、日本銀行が昨年の9月に導入いたしました長短金利操作付き量的・質的金融緩和というこのフレームワークの下で、経済、物価、金融の状況を踏まえながら2%の物価安定の目標に向けたモメンタムを維持するために最も適切と考えられるイールドカーブの形成を促すということにしておりまして、当然のことながら長期金利の操作目標につきましてもこうした考え方に立って、毎回の金融政策決定会合において判断していくということになります。
 金融政策は、ご案内の通りこの金融市場あるいは金融機関を通じて効果が実体経済に波及していくというものですので、その運営に当たっては政策に関する考え方、あるいは前提となる経済・物価情勢についての判断をできるだけ分かりやすく説明して理解を得ていくということが大変重要だと思います。
 ただ、現状では2%の物価安定の目標までにはまだなお距離がありまして、これをできるだけ早期に実現するためには、現在の金融市場調節方針の下で強力な金融緩和を推進していくということが適切だというふうに考えております。

Q、質問が2点あります。
 一つは、先ほどG20についてお話がありましたが、声明文の素案では、保護主義に対抗するといった言葉や通貨安政策の回避といった文言が削除されるといった報道もあるのですけれども、改めまして、黒田総裁はどのような形で議論の場で訴えていかれるのかということをお聞かせください。
 もう一点は、きょうの報道の中でリスク要因として米国経済の動向やそのもとでの金融政策運営が与える影響ということを書いていらっしゃるんですけども、この点もう少し詳しくお聞かせください。
A、まず、G20の声明文ですが、これはまだ事務方でいろいろ議論をしており、さらには、G20の実際の会議を踏まえつつ、現地で事務方がいろいろ詰めていくという話ですので、現時点で私からその声明文の内容について何か申し上げるということは避けたいと思いますが、従来から、G20と限らず、IMFCにしてもOECDにしても、保護主義が世界貿易の伸び率を低下させるということになると世界経済の成長自体にもよくない影響があるということで、自由な貿易投資体制というものを維持していく必要があるということは従来から言われていますし、その点について、私も含めて日本の考え方が変わるということはないと思います。
 為替については、これは財務省の所管ですので、私から何とも申し上げられませんけども、為替政策についての考え方についても国際的な議論、合意がずっとできておりますし、財務省が何か考え方を変えたというふうには私は認識しておりません。
 それから、米国の経済のことですが、米国経済自体は、ご案内のとおり非常に順調に成長しておりまして、特に雇用・所得環境が改善する中で家計支出を中心に回復しているわけですけれども、それだけでなく、かなり企業部門を含めて広い分野で米国経済が全体として改善しているということは確かであります。
 特に個人消費がしっかりと伸びておりますし、また雇用は最近のデータでも非農業部門の雇用者数が23.5万人も増加したということで、消費の伸びを支える雇用・所得環境の着実な改善というものが続いているということでありますので、米国経済自体についてそんなに心配する必要があるとは思っておりません。
 他方で、もちろん、FRBは、物価の安定と雇用の極大化ということに向けてしっかりした政策を続けておられますし、また政府は、新しい政権になって減税あるいはインフラ投資という形で財政の拡張を主張しておられまして、これは両方とも議会で法案ないし予算が通らないと実現できませんので、その状況は今後の在り方次第だと思いますし、また通商関係についての政策についてもまだ具体的なものが出てきているわけではありませんので、そういった意味で、政府の財政政策であるとか、政府というか、政府と議会ですね、財政政策であるとか規制緩和などを中心にした構造改革などについてもまだ具体的な政策が出てきておりませんので、そういった面で不確実性が残っているということだと思いますが、米国経済自体は現状も先行きもかなりしっかりしてきているというふうに思っております。

Q、2問あります。
 まず、先ほどの質問の関連なんですが、長期金利の件で、どういう条件になれば長期金利を引き上げるのか、その条件のようなものを、将来的に整備する、あるいは対外的に示す、そういうお考えというのはありますでしょうか。  それから、もう一つは、最近話題になっているヤマト運輸が、人手不足を背景に宅配便の料金体系を見直しまして、実に27年ぶりに、バブル期以来ですけども、全面的に値上げする方針です。その背景には、ネット通販を多くの人が利用していると、総裁も利用されていると思いますが、まず、コストに見合う対価を支払う、こういう考え方が消費者に受け入れられるというふうに見ていらっしゃいますでしょうか。
 もう一つは、これが物価に及ぼす影響、あるいは物価を押し上げる効果や期待などについて、総裁の受け止めをお願いいたします。
A、まず、第1のご質問ですけれども、現下の長短金利操作付き量的・質的金融緩和にしてもそれ以前のものにしても、日本銀行の金融政策というものは2%の物価安定の目標をできるだけ早期に実現するために行われているわけであります。したがいまして、ご指摘の10年物国債の操作目標についても、当然、今申し上げたような長短金利操作付き量的・質的金融緩和の目的である2%の物価安定目標をできるだけ早期に実現するということとの関連で当然議論しなければならないことであると思います。
 特に金融政策の運営に当たっては、最近、エネルギー価格が非常に動いたりしますので、こういったエネルギー価格などの一時的な要因を取り除いて、物価の基調的な変動を的確に評価する必要があるのではないかと。具体的には、エネルギー価格を除いた指標を含めて、さまざまな物価指標を点検するとともに、物価の基調を決定する要因である需給ギャップや中長期的な予想物価上昇率の動向、さらには、それらの背後にある経済の動きも併せて判断する必要があると思いますので、ヘッドラインインフレーション、あるいはコア、コアコアといった何かの数字がある数字になったからといって直ちに何か長期金利の操作目標を変えるということにはならないわけでして、あくまでも今申し上げたような物価の基調的な変動を十分勘案して、毎回の金融政策決定会合で議論して決めていくということであって、何か一つの物価の指標がある数字になれば機械的に変更するというようなものではないと思っております。
 それから、2番目のご指摘の点ですけれども、個別の企業の経営判断についてコメントするのは余り適当ではないと思いますので、あくまでも一般論として、先ほど来申し上げているとおり、日本銀行としては2%の物価安定の目標を実現するに当たって、企業の収益あるいは雇用、賃金の増加というものを伴いながら物価上昇率が次第に高まっていくという好循環をつくり出していくことを目標としておりますので、この点、企業が人手不足の強まりに対応して持続的に労働力を確保していくための取り組みを進めるとともに、そのために財やサービスの価格などを見直すといった動きはこうした好循環のメカニズムに沿ったものであるというふうに考えております。

Q、9月にイールドカーブ・コントロール政策を導入してから、この間、世界的な金利上昇というような形の大きな局面変化が到来していると思います。この間、日銀は長期金利をゼロ%に抑制し続けているわけですけども、それによって緩和の効果というものは着実に強まっているというふうに今認識しておられるのかどうか、またその効果があるとすれば、そこは具体的にどこに出ているのか、そして効果が出ているとすれば、下振れリスク、景気、物価の先行きの下振れリスクが当時よりも低くなっているのかどうか、この辺についてご認識をお伺いします。
A、先ほど来申し上げておりますとおり、イールドカーブ・コントロールといいますか、最も短期の政策金利残高に対するマイナス0.1%の金利と10年物国債のゼロ%程度という操作目標、この2点を決めることによって適切なイールドカーブを実現していくと、こういう政策であります。
 どういうチャンネルかというのは、これは量的・質的金融緩和、あるいはマイナス金利付き量的・質的金融緩和、今回のイールドカーブ・コントロールのもとでの金融緩和と、いずれも基本的なチャンネルは同じでありますけれども、実質金利を下げて、十分に下げて、投資あるいは消費にプラスの影響を及ぼし、経済が成長し、雇用が拡大するということを通じて賃金や物価を押し上げていくというチャンネルを考えているわけあります。実質金利を引き下げるという場合には、当然ですけども、名目金利を引き下げるということと物価上昇期待を引き上げていくということと両方あるわけであります。
 最近の状況を申し上げますと、予想物価上昇率につきましては、昨年前半、ずっと下がってきたわけですが、後半、ここのところ大体横ばいで推移していると。そういうもとでこのイールドカーブ・コントロールしているということで、実質金利は引き続き非常に低い水準で推移をしております。
 そういうことで、あくまでもイールドカーブ・コントロールを含めて、日本の金融政策はまさに2%の物価安定目標をできるだけ早期に実現するために、今申し上げたようなチャンネルを通じて効果を発揮していくというものであります。
 したがいまして、外国の金利が上がったからといって、こちらの金利を上げなければならないとか、上げる必要があるというふうには考えておりません。そうしたもとで為替に影響が出るんじゃないかということを言われているのかもしれませんが、為替は金利格差だけでなくていろんな要素で動きますので、それから私どもの経済や物価の見通しにつきましては、為替について現状よりも円高になるとか円安になるとか、そういった特定の見通しは前提にしておりませんので、あくまでも、先ほど申し上げたようなことで物価安定目標を実現すると、そういったチャンネルを想定しているわけであります。
 そうしたもとで、下振れリスクが小さくなったかどうかということですが、経済全体にとってみれば、昨年の後半以降、世界経済がかなりしっかりとした回復、成長を示しております。特に米国がそうですし、また中国もそういった底堅い動きを示しておりまして、そういったことは当然のことながら、日本経済も含めて世界経済にプラスの影響を与えておりますので好ましいことではありますけれども、将来に向けた下振れリスクうんぬんにつきましては、前回の展望リポートでも示した通り、経済や物価については上振れリスクよりもやはり下振れリスクが依然として大きいという状況にあるという認識でありまして、あまり大きく下振れリスクが減少したということも必ずしも言えないのかなというふうに思っております。

Q、リスク要因について改めてお伺いしたいんですけれども、リスクのところに「アメリカの金融政策運営」という文言も書き込まれています。アメリカが金利正常化に向かう中で、では今後どういったリスクが考えられるんでしょうか。
 それから、マイナス金利についてもお伺いします。保険ですとか銀行ですとか、マイナス金利の影響を受けて収益が悪化している業界というのがあります。今後、今の金融政策パッケージの中で、副作用が大きいマイナス金利というのをまず外すということは考えられるんでしょうか。もしも残すのであれば、このマイナス金利の部分を場合によっては改めて深掘りするという可能性もまだ残っているんでしょうか。
A、まず第1点につきましては、この公表文にも示しております通り、米国経済の動向やその下での金融政策運営が国際金融市場に及ぼす影響ということでありまして、当然のことながら、米国の金利が上昇していくという場合には、ドルは世界的に使われている通貨でありますし、それから特に新興国の中にはドルで資金を調達している国も多いわけですので、そういうところに対する影響とかいろんな影響は考えられ得るとは思います。ただ先ほど申し上げたように、今の時点で新興国全体として何か問題が生じているということではないと思います。
 それから、リスクとして考え得るとは言いながらも、他方で米国経済の成長が加速していく中で金利が上がっていくということであれば、米国経済加速の世界経済に対するプラスの影響が一方でありますので、金利が上がるという面だけで非常にリスクが大きいとは言えないと思うんです。ただ可能性として、ここにありますような国際金融市場にさまざまな影響を及ぼし得るわけですので、その点は可能なリスク要因として注意していく必要があるということかと思います。
 それから、2番目の点につきましては、このイールドカーブ・コントロールの下で適切なイールドカーブの実現を図っているわけですが、その場合の適切なということは、経済、物価、金融というふうに言っております通り、実体経済あるいは物価、そして金融市場に対する影響も勘案してやっておるわけであります。従いまして、金融、今ご指摘のような保険や年金に対する影響といったことも考慮しつつ、現在のイールドカーブ・コントロールをしているということであります。
 ただ、経済、物価、金融という三つの面を見ながら金融政策を運営するわけですので、さらに金融緩和を大きく進める必要があるということになれば、このマイナス金利についてもさらに深掘りするという可能性がゼロとは言えないと思いますけども、先ほど来申し上げている通り、日本経済は緩やかな回復過程をたどっておりますし、物価の方も現時点ではまだ0%程度ですけれども、今後2%に向けて緩やかであっても着実に上昇していくと見込まれますので、今の時点で何かそういうことが考えられるということではないと思いますが、マイナス金利、マイナス0.1%が(日銀当座預金)残高にかかっているということ、その影響ということも十分考慮しつつ、2%の物価安定の目標の早期達成に向けて、引き続き適切な金融緩和を進めていきたいというふうに思っております。

Q、総裁就任からもうじき4年になりますので、それに関連して二つあるんですけれども、きょうの会見でも物価目標はまだ距離があるということでしたけれども、2年で達成できるとおっしゃった4年前に比べて、金融政策の効果とか可能性について認識が変わったところがあれば教えてください。
 それともう1点、市場では黒田総裁がもう1期続投するんじゃないかと予想する人も少なくないのですけれども、実際に指名を受けた場合には引き受けるお考えがあるのか、あるいは何かの理由で断られるお考えがあれば教えてください。
A、まず第1点ですけれども、日本銀行は2013年の4月に2%の物価安定の目標を2年程度の期間を念頭に置いてできるだけ早期に実現するということを目指して、量的・質的金融緩和を導入いたしました。その後の状況を見てみますと、わが国の経済・物価は大きく好転しておりまして、物価が持続的に下落するという意味でのデフレではなくなったというふうに思います。
 ただ一方で、2%の物価安定の目標は実現できていないわけであります。その背景としては、昨年の9月に公表いたしました総括的な検証でも示した通り、原油価格の下落、消費税率引き上げ後の需要の弱さ、新興国発の市場の不安定化などの逆風によって実際の物価上昇率は下落し、もともと過去の物価上昇率に引きずられやすい予想物価上昇率が横ばいから弱含みに転じたと。それが昨年の中頃まで続いたわけですけども、そういったことが主な原因であるというふうに考えております。
 そうした中で、日本銀行としても2%の物価安定の目標をできるだけ早期に実現するという方針を堅持しておりまして、ご案内の通り2014年10月の量的・質的金融緩和の拡大、それから昨年1月のマイナス金利付き量的・質的金融緩和など、必要に応じて政策面での対応を実施してきております。そして、今申し上げた通り、昨年9月には総括的な検証を行いまして、それを踏まえて、それまでの政策枠組みを強化する形で長短金利操作付き量的・質的金融緩和を導入したところでありまして、今後とも2%の物価安定の目標をできるだけ早期に実現するために、長短金利操作付き量的・質的金融緩和の下で強力な金融緩和をしっかりと推進していくという所存であります。金融政策の効果がないとか、あるいは金融政策の効果が低下したとか、そういった考えは持っておりません。
 2番目のご質問は、私の任期は2018年、来年4月だったと思いますけれども、総裁の任命というのは国会の同意を得て内閣が任命するということでありますので、私から何か申し上げる立場にないということでございます。

Q、二つございます。
 原油の価格ですが、直近、急ピッチで下げております。日本の物価がアダプティブなのであれば、これはまたインフレ率に影響を与え得ると見るべきなのか、一時的ということで現時点でのコメントは難しいと思いますが、ご所見をお願いします。
 二つ目は、FOMCのドットチャートを見ますと3回利上げするということになっていますが、これは日本銀行にとっては緩和効果が高まって好ましいという理解でよろしいのか。財務官を経験した渡辺博史さんが日米金利差10円で400べーシスぐらい近付くとちょっと国際批判がかまびすしくなるのではないかとご心配されているんですが、その辺のお考えもお願いいたします。
A、まず第1点ですけれども、原油価格は非常に変動しますし、その短期的な動きがなかなか予見し難いことがあります。このところ50ドルを割ったり50ドルの上に行ったりというようなことをしておりまして、ひと頃の55ドル前後よりちょっと下がっていることは事実であります。ただ、それがどういう理由でそうなっているのかということについてはいろいろな議論があって、まだはっきりしておりません。
 私どもとしては、原油価格について特別な知見があって今後の見通しを作るという立場にありませんので、あくまでも毎回の展望リポートの時に石油価格について先物市場の動向などを見てこういう動きになっていますということは政策委員会のメンバーには申し上げておりますけれども、今は石油価格の前提をみんなで一致させて決めるということをしておりませんので、それぞれの委員の方がどういった見方で石油価格を見るかということですから、基本的にはやはり特別の見方というよりも、先物市場の動向などを見ておられるのではないかと思います。まだ原油価格が今後どういうようになるかということについて、非常に大きな変化が確定的に起こっているとも言えないと思います。
 原油価格の動向が足元の物価に影響を及ぼすことは事実でありますし、足元の物価の動きが適応的な期待形成ということで予想物価上昇率に影響を与えることも事実ですけれども、足元の物価自体、石油価格の動きだけでなく、もちろんですけれども、特に需給ギャップの状況などに左右されるわけでして、今のところ日本経済の潜在成長率を上回る成長が当面続くというふうにみておりますので、需給ギャップはさらに縮んでいくというかプラスになっていくという状況だと思いますので、そういうことを反映して次第に物価上昇率も高まっていくというふうに思いますので、お答えとしては石油価格について今の時点で何か大きく見方を変えるというようには市場を含めてなっているとは思えませんし、それから、いずれにせよ、昨年の30ドルを割るというようなところから見れば、むしろ足元では石油価格の動きというのは物価を押し上げる方向に働きつつあるんだと思います。ただ、将来は、先ほど来申し上げている通り、まだ石油価格の動向は分からないわけであります。
 それから、いずれにせよ予想物価上昇率は実際の物価がどう動くかによってある程度影響されることはその通りでありますので、その実際の物価上昇率が需給ギャップの縮小などによってどういうふうに動いていくかということが極めて重要だというふうに思っております。
 FOMCのドットチャート等々の解釈については、いろいろな人がいろいろなことを言われておりますので、私から具体的に何か申し上げることはありませんが、仮に年3回上げるということになるとしても、それ自体は、先ほど来申し上げている通り、米国経済がしっかりと成長を遂げていくということとのセットで起こり得ることでありますので、それ自体がマイナスになるとはもとより思っておりません。
 それから、そうした下で米国の金利が上がっていくことがどういう影響を与えるかということについては、先ほど来申し上げている通り、わが国の金利につきましては適切なイールドカーブ、日本の経済、物価の動向に最も適切なイールドカーブになるように操作していくということでありますので、米国の金利が上がったから日本の金利も上がっていくということにはならないわけでして、そういう意味では直接的な影響はないというふうに思っております。
 為替についての影響というのは、これは昔からよく金利格差論がありまして、あるときは短期金利であったり、それもカバー付きとかカバー付きでないものとか、それから長期金利、あるいは中期の金利であったりいろいろなことで議論されますけれども、その時その時で日米金利格差が円ドルのレートと非常に即しているように動いている時もあるし、そうでない時もあるし、あまり私自身はそういう為替という非常に多くの要素によって影響されるものについて、単なる2国間の金利格差だけで何かいろいろ言うというのは、予測としてもあまり当たらないし、政策論としてもあまり、先ほど来申し上げているように日本のイールドカーブ・コントロールという金融政策はあくまでも日本の経済、物価、金融情勢を勘案して決めていくことでありますので、そういった外国の金利が上がるうんぬんということによって左右されることがないというふうに思っております。

Q、4月に米国との新しい経済対話がスタートする予定になっています。そこでテーマの一つで財政金融政策の連携というものが話し合われるというふうに伝えられております。もちろんこの対話自体は政府ベースの話でしょうけれども、金融政策もテーマになるとすると、日銀として何らかコミットすることがあるのか、あるいはないのか。この経済対話におけるマクロ経済政策の議論に対して日銀はどう捉えているのかという点についてご説明いただけますでしょうか。
A、ご指摘の通り、日米首脳会談において麻生副総理とペンス副大統領の両議長の下で経済対話が行われるということが決まりまして、報道されるところによると、4月には第1回の麻生副総理とペンス副大統領の経済対話が行われるのではないかというふうに言われているということはよく承知しております。また、その経済対話が今後行われる際の内容につきましても、経済政策、インフラ投資やエネルギー分野での協力、貿易投資ルールといったこの三つのことを柱とするということになったということも承知をいたしております。
 ただ、その上で申し上げますと、この経済対話の具体的な内容、体制等については、今後両国の政府間で調整が行われるというふうに承知しておりますので、現時点では私どもも具体的にどういうふうになるのかというのは存じておりません。従いまして、それを現時点では見守っているということであります。
 日本銀行といたしましては、今後とも2%の物価安定の目標をできるだけ早期に実現するために長短期金利操作付き量的・質的金融緩和の下で強力な金融緩和をしっかりと推進していくという点には全く変わりはありません。

Q、先ほどちょっと出たんですが、マーケットの一部では日銀が今年にも利上げをするかもしれないと、長期金利の方ですね、というのもCPIのコアの方が1%ぐらいまで来るんじゃないかと。そうすると、長期金利の上昇圧力が上がってくる、それをさすがに日銀は抑えられないのではないかと、指し値を増額しても抑えられなくなって日銀が利上げをしなければいけなくなるんじゃないか。ただ、きょうの総裁の発言を聞いていると、やはりここは物価の基調、ここが2%に明らかに上がってこない限り、日銀は利上げをしないという理解でよろしいんでしょうか。
A、私が申し上げたいのは、本年の後半にかけて消費者物価のコアというかコアコアといか、そういったものが前年比1%近くになるのではないかという市場の一部の人の声ですね、それはあるかもしれません。いずれにせよ、そういったことで直ちに何か機械的に金利を上げていくと、長期金利の操作目標を引き上げていくという考え方は取っていない。それはなぜかと言えば、あくまでも現在のわれわれの政策というのは、物価安定目標をできるだけ早期に実現するということでやっておりますので、この物価の基調的な変動を的確に評価する必要があるので、さまざまな指標を点検して、特に需給ギャップや中長期的な予想物価上昇率の動向、そしてその背後にある経済の動きといったものを総合的に判断して、毎回の金融政策決定会合で長期金利の操作目標について議論していくということであるということでありまして、何かコアが1%になったら金利を上げるとか、そういう機械的なものは考えておりません。
 それから、もう一点は、今申し上げたことに尽きるわけでして、昨年9月に導入して以来、このイールドカーブ・コントロールというのをやってきましたけども、その時に申し上げた通り、適切なイールドカーブを実現するように長期国債の買い入れを進めていきますと。それから、必要があれば指し値オペもやりますと言っておりまして、それに沿ってやってきて、適切なイールドカーブ・コントロールができていますので、何かご指摘のように、国際的な金利が上がっていくとイールドカーブ・コントロールができなくなるとか、あるいはその影響によって、先ほど申し上げたような金融政策の判断とは別に引き上げざるを得なくなるとか、そういったことは全く考えておりません。イールドカーブ・コントロールは十分機能しておりますし、今後ともそれは機能していくというふうに考えております。
 もちろん、ぴったり0%程度にくぎ付けするというようなことではなくて、0%程度と言っておりますし、(日銀当座預金)残高に対する付利は、これは日銀が決める金利ですので、これはぴったり決められるわけですけれども、長期金利の操作目標はこれは市場で決まってくるものについて操作目標を決めて、それになるように長期国債の買い入れを進めていくということですので、程度と断っておりますように、一定の幅があるわけですけれども、これまでのところ適切にイールドカーブ・コントロールができておりますし、今後それが困難になるとかできなくなるとか、そういったことは考えておりません。

Q、少し前の話で恐縮なんですけれども、昨年の11月に会計検査院の方から財務に配慮した形での金融政策運営をというような指摘をされていたと思います。国会などでも答弁されていると思うんですけど、改めて中央銀行にとって、なぜ特殊な存在の中央銀行が財務に配慮しながら金融政策をやらなければいけないのかという点を伺えればと思います。
A、この点は既に引当金の制度を拡充して、日本銀行の収益の振れが大きくなるのをより小さくするということにしたわけであります。これは、量的緩和を進めていく中で収益が拡大するかもしれないけれども、量的緩和を、あるいは今のイールドカーブ、長短金利操作付き量的・質的金融緩和を将来2%の物価安定目標が安定的に実現されるというようなことになれば、当然出口の議論というのは出てくるわけですから、そういうふうになった場合には収益が減少するという可能性がありますので、収益の振れが大きくなることを避けるということは、日本銀行は利益を極大にするということを目標にしているわけではありませんが、一つの、国とは別の法人ですし、国だけでなく民間の株主もおりますので、当然その財務状況というのは適切に考えていく必要があるということはその通りだと思いますし、また利益が大きく上下に振れますと、当然のことながら、国庫納付金も大きく振れるということになりますので、それは国にとってもあまり好ましいことではないと思いますので、日本銀行自身としても財務の状況というのは適切な管理をしていく必要がありますし、政府との関係においても適切に管理をしていく必要があるというふうに思っております。
 ただ、財務の健全性ということが最大の目標ではなくて、あくまでも日本銀行の目標は日本銀行法に書いてある通りでありまして、物価の安定を通じて国民経済の健全な発展に資するということで、物価の安定ということが最も大きな目標でありますので、財務の健全性というのは常に考慮しつつも、物価の安定という最大の使命というか、課題というか、目標の達成にまい進していく必要があるということかと思います。

Q、さっきの質問の続きで、旧日銀法で、必要があれば財務省から日銀に関与することができると書いてあるが、今の日銀法にはそういうふうに明記されていないので、もし収益が減って収益で日銀が行っている政策が行えなくなるという可能性も、見通しもあるんですけど、そういう可能性がないとは言えないので、そういう財務省との取り決めを新たに作る可能性というか、そういう話はあるんでしょうか。
A、結論を先に申し上げますと、そういう話はありませんし、そういう必要性があるとも考えておりません。日本銀行は現在の日本銀行の法律に沿って運営されておりますし、今ご指摘のような事態になるというふうには思っておりません。
 それから、そもそも中央銀行の役割というのは物価の安定であり、またもう一つは金融システムの安定ということでありまして、そのために必要なことを行っていると、そうした下でご指摘のようなことになるということは考えておりません。