日銀黒田総裁会見詳細(2014年6月13日)

2014年6月15日

6/13(金)に行われた日銀金融政策決定会合後の、黒田日銀総裁会見詳細です。(時事通信より転載)

Q、まず第1点ですが、今回の金融政策決定会合の決定に至った背景、ポイントをご説明いただけないでしょうか。

A、本日の決定会合では、マネタリーベースが年間約60~70兆円に相当するペースで増加するよう金融市場調節を行うという、金融市場調節方針を維持することを全員一致で決定しました。資産買い入れに関しても、長期国債、ETF、J―REITなどの資産について、これまでの買い入れ方針を継続することとしました。 わが国の景気ですが、4月の消費税率引き上げ以降、駆け込み需要の反動減(の影響)が現れているものの、おおむね想定の範囲内の動きとなっており、家計支出の基調的な底堅さは維持されています。企業部門を見ても、設備投資は業種や規模の裾野を広げつつ、伸びを高めています。このように、景気の前向きな循環メカニズムは、雇用・所得環境の明確な改善を伴いながらしっかりと作用し続けていることから、景気の総括判断としては「消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動がみられているが、基調的には緩やかな回復を続けている」としました。 海外経済は、新興国の一部になお緩慢さを残しつつも、米国で景気の改善が明確となるなど、先進国を中心に回復しています。輸出は、このところ横ばい圏内の動きとなっています。設備投資は、企業収益が改善する中で緩やかに増加しています。公共投資は、高水準で横ばい圏内の動きとなっています。個人消費や住宅投資は、このところ駆け込み需要の反動がみられていますが、基調的には雇用・所得環境が改善するもとで底堅く推移しています。鉱工業生産は、駆け込み需要の反動の影響を受けつつも、基調としては緩やかな増加を続けています。 この間、わが国の金融環境は緩和した状態にあります。企業の資金調達コストは低水準で推移し、企業から見た金融機関の貸し出し態度は、改善傾向が続いています。そうしたもとで銀行貸出残高は、中小企業向けも含め、緩やかに増加しています。物価面では、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、消費税率引き上げの直接的な影響を除いたベースで見て、1%台前半で推移しています。予想物価上昇率は、全体として上昇していると判断されます。 わが国経済の先行きについては、消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動の影響を受けつつも、基調的には緩やかな回復を続けていくと考えられます。物価面では、消費者物価の前年比はしばらくの間、1%台前半で推移するとみられます。その後は、本年度後半から再び上昇傾向をたどり、2014年度から16年度までの見通し期間の中盤ごろに、物価安定の目標である2%程度に達する可能性が高いとみています。 リスク要因としては、新興国、資源国経済の動向、欧州債務問題の今後の展開、米国経済の回復ペースなどが挙げられます。金融政策運営については、量的・質的金融緩和は所期の効果を発揮しており、今後とも2%の物価安定の目標の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、量的・質的金融緩和を継続します。その際、経済物価情勢について上下双方向のリスク要因を点検し、必要な調整を行っていくという方針に変わりはありません。


Q、政府の方で成長戦略、骨太の方針の取りまとめの作業が佳境に入っていますが、日本銀行として、潜在成長率の底上げに向けた政府の取り組みに対する期待と、政府との役割分担をどういうふうに考えるのか、改めてお聞きしたいんですが。

A、中期的に見た経済の成長力というのは、基本的に資本ストックや労働投入の伸びに加えて、イノベーションなどを通じた生産性の向上によって決定されるというふうに考えております。従って、成長力を引き上げていくためには、企業における前向きな投資を促す、さらには、女性や高齢者などの労働参加を高めることや高度な外国人材を活用することなどを通じて、労働の供給力を高めていくこと。そして、規制・制度改革を通じて生産性を向上させるということが重要な課題となると思います。こうした課題に対して、現在政府は、日本再興戦略の実行を加速するということとともに、その後の議論も加えて、新しい成長戦略の取りまとめを進めているとうかがっておりまして、日本銀行としては、これらに基づく取り組みが着実に進むことを強く期待しております。 また、先ほど申し上げたような企業による積極的な投資、あるいは生産性向上に向けた取り組みを促すためには、人々に定着しているデフレマインドを払拭(ふっしょく)するということも極めて重要でありまして、日本銀行としては、量的・質的金融緩和の着実な推進により、2%の物価安定目標をできるだけ早期に達成するということを通じて、貢献していきたいというふうに考えております。


Q、3点目ですが、先日、欧州中央銀行(ECB)がマイナス金利を含めた政策パッケージを発表されました。総裁として、この欧州でのデフレ懸念、デフレリスクについてどういうふうにお考えか、所見をおうかがいできればと思います。

A、ご指摘のように、ECBが最近マイナス金利あるいは貸し出しの促進、貸出金利の低下を狙った新型オペの導入といった政策パッケージを決定しいたしました。これは、金利の引き下げ、あるいは金融政策の波及メカニズムの改善によって、金融環境の緩和度合いを強めることを狙ったものだと理解しております。確かに、ユーロ圏の物価情勢を見ますと、1%を下回る消費者物価の上昇率が半年以上も続いているということ、さらには先行きも、マクロ的な需給ギャップが残るもとで、物価が上昇しにくい状況が続くと見られているわけであります。もっとも、ECBは中長期的なインフレ予想がアンカーされているということを強調するとともに、今後もそれを保つことに強くコミットしておりまして、今回の金融政策パッケージもその表れだと思いますけども、景気が緩やかに回復していることもあわせてみますと、私どもとしては、ユーロ圏全体としてデフレに陥るリスクは低いというふうに見ています。いずれにせよ、今後ともユーロ圏の経済状況については注視をしていきたいと思っております。


Q、成長戦略の関係で2点うかがいたいのですけど、総裁も経済財政諮問会議に出られて議論されていると思いますが、1点目は法人税減税で、既に安倍政権としては現在30%台半ばの税率を、今後数年で20%台にするという方針を出しています。これについて、代替財源は今後議論ということで、まだ決まっておりません。総裁も、恒久的な減税であれば恒久的な代替財源が要るのではないかという意見もなされたと思いますけども、この点について効果とその問題点についてどうかお考えなのかというのが1点目です。 あと、成長戦略の中で、年金のGPIFの運用改革についても触れられています。これはいろんな見方があると思いますが、リスクが高いんじゃないかという見方がある一方で、ある意味リスク資産にする必要があるんじゃないかという意見もあると思いますが、総裁のご意見をうかがいたい。

A、第1点の法人税減税そのものにつきましては、そもそも税制の具体的な改革内容であるとか、そういったことは政府とか国会で議論されるべきものでありまして、私の立場から具体的にコメントすることは差し控えたいと思いますけれども、その上で財政に関する一般論として、やはり持続可能な財政構造を確立するということは、財政にとって重要であるだけでなく、日本経済が持続的な成長を達成していく上で必須の前提でありますので、これは国全体として取り組むべき課題であると思っております。 この点、政府はご承知のように中期財政計画で、財政の健全化に向けた数値目標と、その達成に向けた取り組みを示しておりまして、日本銀行としては、これが着実に実行されていくということを強く期待しております。
 それから、GPIFの運用改革等、GPIFの問題につきましては、私から何か具体的なことを申し上げる立場にございませんので、特に何かコメントすることは差し控えたいと思っております。


Q、消費税の増税の影響についてお尋ねします。増税から2カ月がたって、だいぶハードデータも出てきているわけですが、総裁は冒頭、駆け込み需要の反動減は想定通りだという話がありましたが、具体的にどういうデータのどこを判断されているかをお願いします。 もう一つ、日銀の今年の4月の展望リポートでは、夏場にかけて消費増税の影響は減衰していって、7~9月期から成長軌道に戻る見通しだと思うんですが、消費増税を乗り越えて、日本銀行の見通しが達成される確度というのは、先月5月の決定会合の際より高まっていると言えるのでしょうか。言葉を換えれば、4月の消費増税に伴う景気の下押し圧力というのは、乗り越えるめどがついたとご判断されているのかどうか、その2点をお願いします。

A、相互に関連したご質問だと思います。まず第1点につきましては、既にいろいろな形で経済指標も出ておりますし、企業からの発言もいろいろあるようですが、4月に入ってからの消費動向全体としますと、確かに自動車など駆け込み需要が非常に大きかった、耐久消費財を中心に反動減がはっきりと表れております。ただ、企業からは反動減の大きさはおおむね想定の範囲内であると。消費の基調的な底堅さは維持されているという声が多いようであります。こうした見方は、景気ウオッチャー調査などにおいても、2~3カ月先の先行き判断DIがはっきりと改善しているということにも表れているように思います。 以上のことを踏まえますと、4~6月の成長率は、反動の影響からマイナスにいったん落ち込むと予想しておりますけれども、ベア実施を決めた企業が増えて、夏のボーナスもはっきりと増加する見込みにあるといったことなど、雇用・所得環境の明確な改善が続くと見込まれておりまして、個人消費の基調的な底堅さは維持されて、夏場以降駆け込み需要の反動減の影響も減衰していくのではないかというふうにみておりまして、そうした下で潜在成長率を上回る成長経路に、わが国経済は復していくだろうというふうにみております。 そういった意味で、4月の消費税増税後の景気の見方というのは今申し上げたようなことなわけですけれども、2番目の、夏場以降の回復の確度がどうかと言われますと、私どもは夏場以降、反動の影響も減衰し、潜在成長率を上回る成長経路に次第に復していくというふうにみておりまして、そういう意味では確実だと思っておりますけれども、いろいろなリスク要因もあり得るわけですので、やはり今後とも各種の経済統計をよく詳細にフォローするということとともに、ヒアリング情報も含めて利用可能な情報をできる限り活用して、やはり丹念に点検していくという必要があると思いますが、先ほど申し上げた通り、夏場以降反動減の影響が減衰していき、次第に潜在成長率を上回る成長経路に復帰するということは確度が高いというふうに思っております。


Q、4月のコアCPIなんですけども、消費増税の影響を除く数字で1.5%ということで、展望リポートで示した今年度の見通しが1.3%であることを考えれば、4月だけ見ると上振れていると思うんですけれども、この4月が若干上振れている要因と、あと物価と成長のバランスが崩れているという懸念はあるのでしょうか。この2点、お願いします。

A、確かに4月に消費税の直接的な影響を除いたところで、除く生鮮食品の消費者物価指数が1.5%の上昇を示したということは、一般に想定されていたよりも若干上振れたのかもしれません。ただ、月々の物価上昇率というのはある程度振れがありますので、すう勢というかトレンドをよく見ていく必要があると思っております。そうした面で言いますと、きょう公表しました「当面の金融政策運営について」というペーパーでも示しておりますように、消費者物価の前年比はしばらくの間、1%台前半で推移するというふうに見ております。ある程度幅を持って見ていく必要があると思いますし、1.5というのがずっと続くというふうに見る必要はないと思っております。
 2番目のバランスうんぬんですが、経済の実質成長率は6四半期連続プラスということで、1~3月の実質成長率は駆け込みも含まれておりますのでかなり上振れしているわけですし、4~6月は先ほど申し上げたようにマイナス成長になると思われますけれども、成長全体として内需を中心に着実に回復をしてきていると。緩やかではあるけども、回復が続いているという意味では、特にバランスが取れていないということはないと思いますが、1点申し上げると、輸出がやや多くの人が想定していたより弱めに出ていることは事実でありまして、その辺りは今後ともよく見ていく必要があるというふうに思っております。


Q、ごく足元なんですけれども、イラク情勢がやや緊迫しておりまして、きのうあたりも原油価格、そして株価の下落といったことを招いております。総裁はこのリスクをどのようにご覧になっておられますでしょうか。

A、きのうのきょうということですので、特別なことを申し上げる立場にはありませんが、やはりイラクは世界に石油を供給している重要な国の一つでありますので、いわゆる地政学的リスクというか、そういうものがどのように動くかということは十分注意して見ていかなければならないと思っていますが、今すぐ何か特別なことを申し上げることはできませんけれども、確かに十分注意していく必要があると思っております。


Q、ECBのマイナスの金利についての総裁の評価をおうかがいしたいんですけれども、金利をマイナスにするというのはなかなか効果がどれだけ出るのか不透明だとも言われているんですが、これは金融政策の実効性、効果としてはどういったものがあるというふうに総裁はお考えなんでしょうか。また、世界的には金利の低下圧力で、為替市場にとってはやや円高方向への圧力になると思うんですけれども、物価の上昇には円安の進行がある程度必要と言われますが、このECBのマイナス金利などの緩和が長期化して、日銀のシナリオに何か影響を与えてくることなどは考えられるんでしょうか。 そして、もう1点なんですけれども、物価の伸びについて、当面1%台ということなんですけれども、いずれ鈍化するとの見方もある中で、現在の金融政策のままで秋口、年後半もインフレ率は少なくとも1%台は維持できるというふうにお考えなのか、改めてお聞かせください。

A、マイナス金利というのは、かつてヨーロッパでも例があったことはあったわけですけれども、ユーロ圏という非常に大きな経済の中央銀行であるECBがその準備預金に対する金利をマイナスにしたというのは、大きな経済主体を見ている中央銀行としては初めてのことですので、そういう意味では注目されるのは当然だと思います。先ほど申し上げたように、今回の政策パッケージは全体として単に中銀預け金のマイナスということだけでなくて、政策金利も引き下げていますし、それから、貸し出しの促進とか貸出金利の低下を狙った新型オペの導入、その他かなりさまざまな手段を動員した金融緩和パッケージでありますので、これはそれなりにディスインフレ状況にあるユーロ圏についてプラスの効果が期待されるものではないかと思いますが、いずれにせよ導入してまだ間がないわけですので、欧州の金融市場であるとか、あるいは実体経済の動向をもう少し見ていく必要はあるとは思っております。 それから、もう一つの日本の物価上昇率の今後の動向ですが、先ほど申し上げたように、1.5%というのは若干みんなが予期していたのよりも上振れている可能性はあると思いますが、月々若干変動しますので、あまり1.5がずっと続かなければならないというふうに考える必要もないと思いますが、私どもは当分の間、1%台前半で上下しながらそういったところで推移して、年度後半から上昇率を高めていって、2015年度を中心に見通し期間の中盤ごろに2%台に達するというふうにみておりまして、そういった考え方には、従来から持っている考え方ですが、それには変わりはございません。物価の動向は常に注視しておりますし、2%の物価安定目標との関連で言いますとまだ道半ばですので、量的・質的金融緩和を着実に推進して、先ほど申し上げたような見通しに沿った形で2%の物価安定目標が達成されることを期待しているし、かつ、そうしなければならないというふうに思っております。


Q、2点うかがいます。1点目は今後の資産買い入れについてなんですが、日銀では2015年以降の資産買い入れの見通し、これを公表しておられませんが、総裁は現在の政策はオープンエンドというふうにおっしゃっております。そうであれば、今後も物価が日銀の見通しに沿って推移する場合、目標が達成されるまでの期間は2015年の1月以降、これも今の資産買い入れを続けていくという理解でよろしいのか、まずこれが1点です。 もう1点は消費税率引き上げの所得への影響なんですけれども、増税の影響としては先ほど反動減については想定通りというふうにおっしゃられたんですが、やはり実質所得の減少という面があると思うんです。この辺が今後の個人消費やマインドに与える影響、足元、原油価格なども上昇しておりまして、その点も踏まえてどのようにお考えか教えてください。

A、昨年の4月4日に量的・質的金融緩和を導入した際の文章にもありましたし、毎月のように行われております金融政策決定会合後の文章にも示しております通り、量的・質的金融緩和というのが2%の物価安定の目標の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで量的・質的金融緩和を継続すると言っておりますので、何かカレンダーで何月までとかというふうに決まっておるのではなくて、そういった意味でオープンエンドで、あくまでも2%の物価安定目標の実現、そしてそれを安定的に持続するために必要な時点まで続けるということに変わりはございませんので、2015年になったら、2%にも達していないのに、あるいは安定的に持続するというような状況になっていないのに、量的・質的金融緩和をやめるというようなことはありません。 それから、消費税増税の実質所得への影響ということですが、ご指摘のように駆け込みと反動減というのは、理念的に言いますと基本的にはチャラになる話なわけですね。ですから、経済の実体、つまりGDPとか成長率には短期的にはともかく影響がないということになるわけですが、じゃあ中長期的にどうかといえば、ご指摘のように税負担の増加ですので、これは消費税であれ所得税であれ同じことなんですけれども、実質可処分所得が減少して消費に影響が出るということは、その面だけとればその通りであります。ただ、他方で、ご存じのように今回の消費税の増税に当たっては政府も影響を緩和するためのさまざまな措置を取っておりますので、それによってマイナスは相当緩和されている可能性はあります。それから、さらにより本格的に中長期的に見れば、こうしたことによって財政全体の持続可能性が増し、例えば社会保障などについての信頼性を増すということになってくれば、むしろそれが消費を支えることになるというプラスの面もありますので、必ずしも消費税の増税が中長期的に消費、あるいは成長率の伸びを抑えるということにはならないと思います。


Q、輸出関連のことで1点お伺いしたいんですけれども、4月の展望リポートでも、先行き、輸出が緩やかに回復するということを前提にされているかと思うんですけれども、前提の大きさは委員の方々で違うかと思うんですが、現実、4月の輸出統計も結構弱めで、この間出ました上中旬のデータも弱かったわけです。 5月の全体は来週に出ますけれども、輸出が出ないことによって成長率に何がしかの下押しが働くかと思うんですけれども、それの物価への影響を現状でどう見られているのか。また、昨年のように、生産性の悪い非製造業が活発化すれば、成長率が下振れても、物価はオントラック、その可能性も続くのかどうか、その辺に関してお伺いしたいんですけど。

A、実質成長率はさまざまな要因で決まってきますので、輸出が予期したほど伸びなくても、内需が予期した以上伸びれば、実質成長率は予期したよりも上振れするかもしれませんし、特定の要素だけを取って、他のものが変わらないとすれば、それが予想よりも伸びなければ、全体も伸びなくなるはずですけれども、全体が伸びなくなるかどうかは、さっき申し上げたように、他の内需その他の要因にもよりますので、一概には言えないと思います。現に、最近、4月の輸出は若干伸びたわけですけれども、多くの人が期待していたほど伸びなかったというのは事実でありまして、そこには、この1~3月、米国の成長率がマイナスになったということもありますし、世界経済全体として見てもかなり成長率が下がっておりまして、それが日本を含めて輸出に若干の影響が出てきたことは否めないわけでして、それは、成長率の一時的な低下が輸出の一時的な低下に結びつく間に若干のラグがありますので、もう少し5月、6月と見ていく必要があろうというふうには思っております。 いずれにしましても、輸出の動向につきましては、日本の輸出の主要な市場でありますアジア、米国等の経済動向をよく点検していく必要があるというふうには思っておりますが、輸出の回復の時点が少し後ずれした可能性はありますけれども、輸出が全体として回復しないというふうには見ておりません。それは、先ほど申し上げたように、1~3月は一時的に世界経済の成長率がかなりダウンしましたけれども、米国は明確に成長率が上昇しておりますし、今後さらに加速していくだろうというのが私どもの見方であり、多くの見方ですし、中国経済を見ますと、成長率のモメンタムの下方シフトみたいなものが止まって、はっきりと安定成長の状況が出てきておりますので、米国を中心に先進国の経済成長が加速していき、中国その他、新興市場国の成長率も安定的に高い水準で維持されるというふうに私どもは見ておりますし、IMF、世界銀行等も見ているようですけれども、そういうシナリオに沿って世界経済が動いていく限り、日本の輸出も、緩やかではあるけれども、増加していくというふうに見てよいのではないかと思っております。


Q、成長のことについてちょっと伺いたいんですけれども、今、足元で設備投資なんかが増えておりまして、経済の供給力の向上ということでもこれから貢献してくるかとは思うんですけれども、そんな中、最近、総裁、副総裁も含めてなんですけれども、政府の成長戦略への期待とか、供給力の向上といったものが必要というお話が増えているかと思います。こういったことについて、市場では潜在成長率が上がらないと物価が上がらないというふうに日銀が考え始めているんじゃないかと、そういううがった見方をする人もいるんですが、そういったことに関して総裁はどういうお考えでしょうか。

A、それは、うがった見方というか、間違った見方だと私は思います。私どもは別に、成長率が下がると物価安定目標が達成できないというふうに考えておりませんで、あくまでも量的・質的金融緩和を着実に推進することによって2%の物価安定目標は達成できるというふうにみております。 ただ一方で、物価は2%の上昇を達成するけれども、実質成長率は非常に低いままだとか、そういうことは好ましくないわけでして、予想以上のスピードで労働の需給がタイトになり、GDPギャップが縮小してきているわけですので、やはり、中長期的に見て成長率を高めていくための政府、民間の努力ということは極めて重要であるというふうに思っております。 一方、日本銀行としても、先ほど申し上げたように、デフレマインドが残っていますと、なかなか企業が前向きの投資を行わない、あるいは、生産性向上に向けたさまざまな取り組みをやりにくいという面があったわけですので、それを払拭(ふっしょく)して、積極的な投資、生産性向上に向けた前向きな取り組みを促すということによって、潜在成長率の押し上げにも何がしかの貢献ができるのではないかと思っておりますけれども、やはり、基本的には、中央銀行は物価安定を達成し、政府は民間主導の経済成長を達成するための努力をするということだと思いますし、それが昨年1月の政府と日本銀行の共同声明でも示されているわけでありまして、今ご指摘のようなうがった見方というのは、まさにうがっていて、あまり当たっていないというふうに思っております。


Q、先月の会見で、為替相場について、円高になるような理由はないとおっしゃいましたけれども、これはドル・円を念頭に置かれたと思うんですけれども、ユーロ・円についても同じような考えなのでしょうか。

A、これは、先ほど誰か別な方が言われた問いとも関連していると思うんですが、ユーロ圏の物価上昇率が、今のところ1%を割った状況が半年以上続いていて、今後とも、ECBの見通しでも、中期的に、なかなかECBが目標としている2%に近い2%以下の物価上昇というところに達しないというようなことがあるわけですし。 また、今回のECBの追加緩和パッケージというのも出されたわけでありまして、そういった状況が為替レートにどういう影響を与えるか、ユーロ・円にどういう影響を与えるかということはいろいろな議論ができると思いますが、常に私は申し上げていますけれども、為替レートというのはいろいろなファクターで影響されますので、なかなか一概には言えないとは思うんですけれども、一方で、わが国の2%の物価安定目標に向けた道筋も着実にたどっているとはいえ、まだ道半ばでありますし、量的・質的金融緩和というのは2%の物価安定目標を実現し、それを安定的に持続できるようになるまで続けるわけですし。 そういったことから言うと、ユーロ・円について何か円が、特にユーロとの関係で強くならなければならないという理由もあまりないように思われますし、リーマン・ショック前のレベルと比べますと、今のユーロ・円のレベルというのはユーロがかなり安い、低い状況にありますので、いろいろ勘案しますと、この間のマイナス金利を含むECBの追加緩和によって、何か円がユーロに対して特に強くなければならないということはないのではないかと思っております。


Q、先日、白井さんが講演、会見を行ったんですけれども、日銀の中心的な見通しとしては、消費者物価指数が15年度を中心とする期間に2%に達する可能性が高いというふうになっていますけれども、白井さんは、それからほぼ1年ぐらいおくれるというようなご自身の見通しを示されました。 その上で追加緩和が必要ないのかという質問に対して、ご自身の見通しから後ずれする、あるいは、下振れるようなことがあれば必要かもしれない、裏を返せば、ご自身の中心的な見通しに比べれば1年遅い見通しで実現するというのであれば、追加緩和は必要ないのではないかということを示唆されたわけですけれども、黒田総裁、あるいは中心的な考え方として、15年度を中心とする期間から1年もおくれるようなことになれば、これは追加緩和が必要だというふうにお考えになるのかどうか、お聞かせください。

A、何度も申し上げていますように、2%の物価安定目標に関しましては、昨年の4月4日の導入時に申し上げた通り、私どもの意図としては、できるだけ早期に、2年程度の期間を念頭に置いて2%を達成するために必要にして十分な金融緩和を導入したわけであります。 その後、着実に2%への物価上昇の道筋をたどっているというふうに見ておりまして、このところ、政策委員の見通しの数字も、成長率については若干振れがありましたけれども、物価上昇率の見通しについては政策委員の見通しの中央値というのは変わっておりません。 従いまして、先日の展望リポートの文章にありますように、14年から16年までの見通し期間の中盤ころ、ですから、15年を中心とした時期に物価安定目標である2%に達する可能性が高いというふうに見ておりまして、今申し上げたような幅はあるわけですけれども、政策委員会の大層の見方は今のような見方であると言ってよいかと思っております。 そういった見方、見通しと違った、上振れでも下振れでも上下双方向のリスクが出てくれば、当然、ちゅうちょなく政策についての調整を行うということも申し上げている通りでありまして、この点についても政策委員の方々の考え方は大方一致しているというふうに思っております。


Q、さっきの法人税について、先ほど安倍総理が来年度からの減税を表明されたので改めて確認しますが、法人減税が果たして日本経済の成長の底上げにどれぐらい効果があるのか、総裁のお考えを改めて確認したいのと、あと、先ほどはっきりお答えにならなかったので改めて確認しますが、代替財源ですけれども、恒久的な代替財源が必要だという考えにお変わりはないのかどうか、確認をお願いします。

A、税制改正の経済的な効果というのは、いろんな形で分析ができると思いますけれども、法人税の減税につきましてもいろんな分析がありまして、法人減税の部分だけ取った場合に、それが設備投資とかR&Dへの投資を促進し、経済成長にとってプラスになるだろうという分析結果というのは一般的に認められていると思いますが、他方で、その部分だけ取ってみるというのは、実際は現実の政策としてはないわけでして、そうすれば財政赤字が拡大するのはどうするのかとか、あるいは財政赤字が拡大しないように代替財源を、例えば具体的に何かの税を増税するとか、歳出をカットするということになれば、そちらの影響も勘案しないといけませんので、それらを全体として勘案した場合にどういうふうになるのかというのは、そう簡単ではないと思います。 ただ、法人減税の部分だけ取り出してみれば、それは投資を促進し、潜在成長率を押し上げるという効果があるということは間違いないというふうに思っております。なお、恒久減税については、恒久的な財源の措置が必要であるというのは、私は当然であると思っておりますけれども、いずれにせよ具体的にどういった税制改正を行うのか、あるいはその財源をどのように求めるのかといったことは、政府・国会で議論し、決められることであるというふうに思っております。

 

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